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動作分析で学ぶ左官の極意①:「もっと身体全体を使って」と言われましても

左官作業を学ぶ中で、熟練者からよく言われるアドバイスの一つが「もっと身体全体を使って」という言葉です。しかし、初心者にとっては、その意味が具体的にどういう動きなのか分かりづらく、「そう言われても…」と感じることも少なくありません。 そこで今回は、光学式モーションキャプチャ(MC)を活かし動作分析を通して熟練者の動きがどのようなものかを可視化し、「身体全体を使う」とはどういうことなのかを探ってみました。 四角形の形をした型枠にモルタルを打設し、ならす作業を行いました。今回の分析では視点を上部からに固定し、かつ頭頂部の動きの軌跡をプロットした動画を見てみましょう。
熟練者(画像をクリックで動画再生:20倍速)
初心者(画像をクリックで動画再生:20倍速)
熟練者と初心者の頭のマーカの軌跡の比較

左:熟練者
右:初心者モーションキャプチャ分析の結果
初学者は型枠の周りを円を描くように作業するのに対し、熟練者は各辺である程度一定の場所にとどまって作業を行います。軌跡に着目すると、熟練者は頭の位置が固定されているため線状となっていることがわかります。この工程に着目すると、「ならし」と呼ばれる作業を行っていたことがわかりました。熟練者は「下地づくり」と呼ばれる工程が完了すると、「ならし」作業に入ります。直感的には左官作業は手で行うイメージですが、なんと「ならし」作業においては手よりも足が疲れるそうです。なぜでしょう?
足は動かさず、腰を巧みに使う
理由を尋ねると全身を使うからだそうです。 もう一度意識して熟練者の動きを見てみましょう。「ならし」工程では作業中は足を固定し、股関節を使って、上半身を左右に振るようにして動いていることに気が付きました。熟練者にヒアリングを行うと、手を中心に使う「下地づくり」と対比して、腰を使うことを「身体全体を使って」表現しているとのことでした。腰をしっかり使うには足の踏ん張りが肝心で、結果として手よりも足が疲れるんだそうです。
まとめ
特にスポーツ系の技能の世界では実際の動きと本人の感覚が乖離しており、言語化した際にギャップが生まれる事象が確認されており、「わざ言語」という用語が用いられています。技能者間の「身体感覚の共有」に貢献出来るよう、技能の可視化・定量化にチャレンジして行きます。